遺言の口授について
1 遺言における口授
遺言では,公正証書遺言と死亡危急時遺言において,遺言者が口授の方法で遺言書を作成することが認められています。
口授とは,遺言の内容を言語をもって申述すること,すなわち,口頭で述べ,その言葉どおり記憶させることであるとされています。
口を用いて述べなければなりませんから,記号や文字,動作,手真似によるものは口授にはなりません。
また,直接の対話による必要があることから,通訳を介した対話や電話による対話によるものは認められないと考えられています。
このように,口授を要件とするのは,遺言者の遺言意思の真正さを担保するためです。
もっとも,口がきけない者については通訳人の通訳によるか,または自書することによって,口述にかえることができるものとされる(民法969条の2第1項)など,一定の要件の緩和の規定もあります。
2 公正証書遺言作成の場合の実際の運用
この口授については,すべてを口で述べるのではなく書面をもって口授の一部に代えることや,予め筆記をしたうえで口授するという方法も認められています。
したがって,実務上は公正証書遺言を作成する際に,公証人が,遺言者が口授した内容を聞いたうえ,その場で書きとるという方法がとられているわけではありません。
実際には,公証人が,予め弁護士などから遺言の内容について連絡を受けたうえで,文案を作成しておき,遺言者から「口授」を受け,その内容があらかじめ作成された証書の内容と一致することを公証人が確認し,これを読み聞かせたうえで,関係者の承認を受けて,署名・押印がされるという手順が踏まれています。
なお,豊田市内にも豊田公証役場があり,ここでも通常はこのような手順で遺言書が作成されます。
3 口授として認められない場合
上述のとおり,口授の要件はある程度緩和して考えられていますが,口授として認められない場合があります。
たとえば,公証人の質問に対して,言語をもって陳述することなく,たんに肯定または否定の挙動を示したにすぎないときや,遺言者がただうなずくのみであった場合には,口授があったとは認められません。
また,公正証書遺言と死亡危急時遺言の場合で,口授として認められる要件が異なるのではないかという議論もあり,口授として認められるかどうかは個々のケースに基づいて判断されることになります。